福岡高等裁判所宮崎支部 昭和63年(う)35号 判決 1988年7月19日
主文
原判決を破棄する。
被告人を懲役三月に処する。
この裁判の確定した日から二年間右刑の執行を猶予する。
宮崎県高鍋警察署で保管中のふくろ網一統(昭和六三年宮崎地方検察庁外領第三九号の五)及び宮崎地方検察庁が領置しているうなぎの稚魚四八〇グラムの換価代金一二万四八〇〇円(同庁昭和六三年領第三九号の一)を各没収する。
理由
本件控訴の趣意は、検察官榎本雅光提出(同藤野千代鷹作成)の控訴趣意書に記載されたとおりであるから、これを引用する。
所論は、要するに、原判決は、没収すべき原判示のうなぎ約四八〇グラムの換価代金一二万四八〇〇円を没収せず、被告人に対し同金額の追徴を命じたが、これは宮崎県内水面漁業調整規則(以下「本件規則」という。)三六条二項の適用を誤ったもので、判決に影響を及ぼすことが明らかであるから破棄を免れない、というのである。
そこで、記録を精査し、当審における事実取調べの結果をも合わせて検討すると、原審において取調べられた現行犯人逮捕手続書、差押調書、換価処分書並びに当審において取調べた換価代金預入証明書によれば、被告人が原判示の犯行によって採捕した原判示のうなぎは、昭和六三年一月一九日被告人が現行犯逮捕された際に逮捕現場において司法巡査によって差し押さえられ、右同日高鍋警察署の司法警察員によって生魚であり保管できないとの理由により換価処分に付され、買受人末沢髙夫に対し代金一二万四八〇〇円で売却された後、右換価代金は、宮崎地方検察庁が領置したうえ(同庁昭和六三年領第三九号の一)、同検察官から同庁歳入歳出外現金出納官吏である検察事務官に提出され、同月二一日検察事務官により日本銀行に預け入れられて引き続き保管されていることが認められる。
右事実によれば、右差押えに係るうなぎは、刑事訴訟法一二二条、二二二条一項所定の「没収することができる押収物で保管に不便なもの」として右規定に従い換価処分に付されたものであるから、没収の関係においては法律上被換価物件と同一視すべきものでこれを没収の対象物とすることができるのである(最高裁昭和二五年(あ)第四七七号同年一〇月二六日第一小法廷決定、刑集四巻一〇号二一七〇頁参照)。
したがって、本件においては、被換価物件である前記うなぎの換価代金は、本件規則三六条二項によりこれを没収すべきものであって、同金額を追徴すべきものではないから、右と異なり、右換価代金を没収することなくこれと同金額を追徴する措置に出た原判決には、本件規則三六条二項の適用を誤った違法があり、これが判決に影響を及ぼすことは明らかであるから、原判決は破棄を免れない。論旨は理由がある。
よって、刑事訴訟法三九七条一項、三八〇条によって原判決を破棄し、同法四〇〇条但書に従い、本件について更に次のとおり判決する。
原判決が適法に確定した事実に法令を適用すると原判示の所為のうち、知事の許可違反の漁具によるうなぎ採捕の点は本件規則三六条一項一号、六条七号に、全長制限違反のうなぎ採捕の点は同規則三六条一項一号、二七条一項に各該当するところ、右は一個の行為で二個の罪名に触れる場合であるから刑法五四条一項前段、一〇条により一罪として犯情の重い本件規則六条七号違反の罪の刑で処断することとし、所定刑中懲役刑を選択し、その所定刑期の範囲内で被告人を懲役三月に処し、刑法二五条一項を適用してこの裁判の確定した日から二年間右刑の執行を猶予し、宮崎県高鍋警察署で保管中のふくろ網一統(昭和六三年宮崎地方検察庁外領第三九号の五)は原判示の犯行の用に供したものであり、宮崎地方検察庁が領置している金一二万四八〇〇円(同庁昭和六三年領第三九号の一)は右犯行によって得たうなぎの稚魚四八〇グラムの換価代金であり、いずれも被告人以外の者に属しないから本件規則三六条二項を適用してこれらを没収し、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 安藝保壽 裁判官 仲宗根一郎 内藤正之)